主な研究成果

 

40年あまりのあいだに、知覚、記憶、イメージ、言語、推論、社会的認知、研究法など、さまざまなテーマで研究をしてきましたが、その中から、特に努力を傾注した研究を3つ紹介します。

◆ 鏡映反転

「鏡に映ると、上下は反対にならないのに、左右は反対になる。」

これは誰もが知っている身近な現象です。ところが、なぜそうなるのか、その理由については、プラトンの昔から二千数百年もの長きにわたって議論が続いてきたにもかかわらず、未だに定説がありません。いろいろな説が提案されてきたものの、どの説の場合も、うまく説明できない事実が残ってしまうのです。

私は、「鏡映反転は1つの現象ではなく、3つの別々の現象の集まりだ」と考えれば、鏡映反転に関連するさまざまな事実がすべて矛盾なく説明できること、すなわち、鏡映反転の問題が解決できることを突きとめました。その説明を「多重プロセス理論」として定式化し、この理論の予測を実験で検証することによって、鏡映反転の問題がほんとうに解決したことを示しました。とはいえ、この理論が定説になるのは、私の死後のことになりそうですが...。

参照: 髙野陽太郎 『鏡映反転 ― 紀元前からの難問を解く』(岩波書店 2015年)

詳しくは、下記のページをご覧ください。

鏡の中で左右が反対になるのは何故か?

◆ 日本人論批判

いわゆる「日本人論」(あるいは、「日本文化論」)では、長らく「日本人は集団主義的、欧米人は個人主義的」だと言われてきました。しかし、私はアメリカで暮らしているあいだに、ほんとうにそのような違いがあるのか、疑問に思うようになりました。

そこで、「世界でいちばん集団主義的」と言われてきた日本人と、「世界でいちばん個人主義的」と言われてきたアメリカ人を比較した実証的な心理学研究を調べてみたところ、実証データはこの通説をまったく支持していないことがわかりました。心理学以外の分野でも、「日本人の集団主義」に関連する実証的な研究を探してみたところ、経済学、言語学、教育学の分野で信頼できる実証的な研究が見つかりましたが、いずれの研究結果も「日本人は集団主義的」という通説とは相容れないものでした。

「誰もが『日本人は集団主義的だ』と言っているのだから、やはり日本人は集団主義的なのだろう」と考える人が圧倒的に多いので、「日本人集団主義」説がなぜ生まれ、なぜ広く信奉されるようになったのかも調べてみました。その結果、「日本人 = 集団主義」説が通説にまでなった理由は、この説が正しいと仮定しなくても、いくつかの思考のバイアスによって充分に説明できることがわかりました。

こうした私の研究を批判した通説の支持者たちとも議論を交わし、かれらの批判の論理的な分析と、新たな実験によって、そうした批判が当を得ていないことを明らかにしました。

参照:  髙野陽太郎 『「集団主義」という錯覚 ― 日本人論の思い違いとその由来』 (新曜社 2008年)

詳しくは下記のページをご覧ください。

http://folse.info/main-accomplishments/japanology/

 

◆ 外国語副作用

日本の大学院で議論をしていたときには、その議論に関連したいろいろなアイデアが自然に頭に湧いてきたので、それを縦横に駆使して議論をしていました。ところが、アメリカの大学院に留学すると、早口の英語が全然理解できないということもありましたが、理解できたときにも、そこで止まってしまって、それ以上ほとんど考えが進まなくなってしまいました。

はじめは単に「英語ができないせいだろう」と思っていたのですが、そのうち、どうもそれだけではなくて、「ほんとうに頭が悪くなっているのではないか」と感じるようになりました。

注意をテーマにした Neisser 教授のゼミに参加していたとき、そこで取り上げられた注意の理論とこの実感とがふと結びついて、「ほんとうに頭が悪くなっているということもありうるのではないか」と気づきました。注意の理論にもとづいて考えると、不自由な外国語を使っている最中は、外国語を使うのが大変なので、そちらに注意が奪われて、思考の方がおろそかになってしまったとしても、決しておかしくはないのです。

とはいえ、それはあくまでも理論的な可能性にすぎなかったので、ほんとうに思考力が低下しているのかどうかを調べるために、注意の研究で開発された二重課題法という実験方法をアレンジして、この理論的な可能性を検証してみました。この実験の結果、不慣れな外国語を使っている最中には、ほんとうに思考力が低下した状態になることがわかりました。

最初の実験は、留学先のアメリカの大学で、博士論文のための研究とは別に、いわば「副業」としておこなったのですが、その後も間歇的に実験を続け、現在も新しい実験をしています。

詳しくは下記のページをご覧ください。

http://folse.info/main-accomplishments/folse/