3年前(2020年7月)、英語で著書を出版するという契約を Cambridge University Press と交わしました。「日本人は集団主義的だ」という日本人論の通説が事実にはそぐわないということを論証する学術書です。日本語では、ほぼ同じ内容の著書を既に2冊刊行していたので(『「集団主義」という錯覚』『日本人論の危険なあやまち』)、「2年あれば余裕で書き終えられるだろう」と思い、原稿の締切を2年後(2022年9月)にしてもらいました。
以後、原稿の執筆に全力を注いできたのですが、英語で本を書くというのは、やはり大変な仕事で、結局、2年では書き上げることができませんでした。今回の本は、内容が、専門分野である認知心理学だけではなく、社会心理学やパーソナリティ心理学、さらには、経済学や人類学、歴史学などにまで及ぶので、使い慣れた単語や言いまわしだけではとても足りず、適切な英語表現を見つけるには膨大な時間を要しました。たとえば、「談合を暴くために、アメリカ政府は1978年に課徴金減免制度を導入した。談合に参加した企業が自発的に談合を当局に通報すれば、その企業は課徴金を免除されるか減額されるという制度である」などという文を英語で書かなければならなかったからです。
今回は学術書であり、また、前著から内容を大幅に拡充したので、さまざまな分野に渡って、数多くの論文や専門書を読まなければなりませんでした。これにも膨大な時間を費やしました。
締切の期日から半年余り、今年の5月はじめになって、ようやく原稿を書き終えました。表題は、Cultural Stereotype and Its Hazards: “Japanese Collectivism” as a Case です。「日本人 = 集団主義」説を事例として分析することによって、文化ステレオタイプの特性とその危険性を明らかにする、という本です。
原稿は、Culture & Psychology シリーズの責任編集者(研究者)に送られ、彼のコメントにもとづいて意見交換をしたり、改善を加えたりしました。たとえば、彼が「個人レベルのデータでは日米差がなかったとしても、国家レベルで日米差がある可能性は否定できないのではないか」というコメントを付けてきたので、「国家レベルでの集団主義・個人主義というのは、誤った研究方法に由来する錯誤にすぎない」ということを論証する項を追加しました。このプロセスには時間がかかるものと覚悟していたのですが、意外に早く終了しました。
予想外に時間がかかったのは索引の作成でした。契約に「索引は著者が作る」という一項が含まれていることは認識していたのですが、日本の出版社から本を出したときには、索引はいつも出版社が作ってくれていたので、私は索引を作った経験がありませんでした。たしかに、著者が作ったほうが役に立つ索引ができるのかもしれませんが、それにしてもかなりの作業量でした。原稿を書くのとは違って、あまり創造的な作業ではないので、負担感が大きかったのかもしれません。ワードの索引作成機能を利用したのですが、ワードにそんな機能がついていることは初めて知りました。あちこちで聞いてみたところ、欧米の出版社の場合、索引は著者が作るのが普通らしいということがわかりました。
索引つきの最終原稿ができあがったのは7月末でした。8月中は出版社がバカンスで何も進まず、9月になってから原稿が content editor に送られ、いずれ英語表現の修正や校正が始まることになると思います。出版は早くても9ヶ月後になるそうです。