外国語副作用の英語論文、『認知科学』誌に掲載(2021年6月)

外国語副作用の実験2つを報告した英語の論文(Takano & Yagyu, 2021)が『認知科学』第28巻第2号に掲載されました。

「外国語副作用」は、「慣れない外国語を使っている最中は、一時的に思考力が低下した状態になる」という現象です。

今回の論文では、「思考が内言を伴う場合でも、外国語副作用は生じる」ということを実験で示しました。「内言」というのは、声に出さずに、心の中だけで語る言葉です。日常の言語活動(会話、交渉、議論など)には、内言が伴うことが多いと言われていますが、今回の実験結果から、そうした日常の言語活動でも外国語副作用は生じると考えることができます。

Takano & Noda (1993) 論文では、外国語副作用の存在を理論的に予測し、実験的に立証しました。Takano & Noda (1995) 論文では、英語を外国語として使っている場合、外国語副作用は欧米人(英語と同じインド・ヨーロッパ語族の言語を母語とする人々)より日本人の方がずっと大きくなることを立証しました。

今回の論文は、外国語副作用に関する私たちの論文としては、それ以来、四半世紀ぶりの論文ということになります。しかし、この論文で報告した実験を行なったのは、2001年から2002年にかけてのことでした。この論文はロジックが少しばかり込み入っているので、どの雑誌の査読者も理解してくれず、なかなか掲載には至りませんでした。今回は退職後で時間があったおかげで、すったもんだの末ではありましたが、粘り勝ちで何とか掲載に漕ぎ着けることができました。それにしても、論文の発表に20年近くかかったことになります。

Takano & Noda (1993, 1995) 論文では、「慣れない外国語を使っている最中は、一時的に思考力が低下した状態になる」という現象を「外国語効果」(foreign language effect)と呼んでいました。しかし、大学英語教育学会で研究発表をしたとき、門田修平氏から「『効果』という言葉は望ましい現象を思わせるが、『外国語効果』は望ましくない現象なので、『効果』という名称は不適切ではないか」というご指摘を受けました。たいへん尤もなご指摘だと思い、以来、この現象は「外国語効果」ではなく、「外国語副作用」(foreign language side effect)と呼ぶことにしました。論文でこの「外国語副作用」という用語を使用するのは、今回が初めてのことになります。

数年前、日本の医学界は、「副作用」という言葉の代わりに「副反応」という言葉を使う、という決定をしました。その理由として、「『副作用』と聞くと『悪い影響』を思い浮かべてしまうが、必ずしも『悪い影響』ばかりではないのだから、『副反応』という言葉に替えるのだ」という説明を聞いた覚えがあります。しかし、日常生活の中で「副反応」という言葉が使われる場面を考えてみれば、いずれは「副反応」という言葉にも「悪い影響」というイメージ(内包的意味)が染みついてしまうのは避けられないでしょう。

新型コロナウィルス対策のワクチンのニュースが、毎日、マスコミを賑わせていますが、そうしたニュースの中では「副反応」という言葉が使われているので、そのうち「副作用」という言葉は死語になってしまうかもしれません。そのとき、「副反応」という言葉に「悪い影響」というイメージが染みついていれば、「外国語副作用」は「外国語副反応」と呼び替えた方がいいでしょう。私の死後のことになるかもしれませんが、遠慮なく呼び替えてください。もっとも、英語では、「副作用」も「副反応」も side effect ですから、foreign language side effect はそのまま、ということになりますが。